神々の破滅(ラグナロク)が異世界を救う!? 9/11

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待ちぼうけをくらっていたサルミとエリアンは、サルミは大人しく、エリアンはのんびりと待っていた。と、なかなか帰ってこないイルクナーたちに焦れて、エリアンはとある提案をした。

「なんかゴブリン捕まえるのに、苦戦してるっぽいよな。まあ、しょうがないと思うんだけど、時は金なりって言うじゃん?

 時間は大切にってね。だからいっそ俺たちだけで、ミルナさんたち助けにいかない?」

 エリアンはすでに、自分が二人を救出してる姿を想像していて、目が輝いていた。対してサルミは、幼すぎる考えのエリアンに頭を抱える。

「あんたには戦い以前に、学習能力が必要ね」

「学習?」

「さっきの戦いで、みんなの足を引っ張っていたこと忘れたの?」

「補足するなら、俺の優しさがそうしたんだ。それに過去は過去だから。

 俺の実力が発揮されれば、俺一人でも充分やれるさ。なんたってスターなもんでね」

 さてと言いながら、さり気なく城に向かおうとしたエリアンを、サルミは術を使ってでも止めようとする。

「止めようっていったって無駄だよ。スターには待っている人がいるからね」

 俺だってつらいんだといった表情を見せ付ける。サルミは、違った種の疲れた顔つきをしていた。

「はあ~、馬鹿の相手は疲労が溜まるわね。------ん? 待って」

 そう告げるや星術で探知したファラナらを見つけ、動向を探る。

「あの人たちも動き出したみたい------。この様子だと城に行きそう------きっとカジール司教がいて合流するのね」

 結果的にエリアンが動こうとしたことで、サルミの星術が生きたことになる------イルクナーたちを待ってそれからといった判断がしやすったのだ。だがエリアンは、ますますいきりだった。

「なんだって! ならこうしちゃいられない。

 早くいって、あの娘を守らなきゃ。それもまた俺の使命だし」

「は?」

 目を剥くサルミをよそに、エリアンは駆け足で城へと向かう。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 慌てて追いかけるサルミだが、距離は一向に縮まらない。そうしているうちに、ファラナたちのいるすぐ近まで来ていた。

「サルミ、城はもう目の前だけど、どのへん?」

「どのへんじゃないわよ! いいから早く隠れて」

 焦るサルミは、エリアンの袖を掴もうとした。そのとき、二人の声を聞きつけたファラナたちが、逃すまいと素早く駆けつける。

意図も容易く、二人を見つけ出していた。ただ、探し物を見つけたといった顔つきをしながら、どのようにして縄を解いたのだろうかとの謎がふと浮かぶ。

こんなところに二人でいる疑問もあり、混在しながらの態度になった。

「貴様たち、あの縄をいかにして解いたのだ? 答えろ」

 クレキは、縄の効力を消された術があるならば潰しておきたいとの考えがあり、苛立ち気味になっていた。対してエリアンたちは、高圧的な物腰に抵抗するかのように答えない。

「秘技か姑息な手でもあるのか、それとも運よく誰かに助けられたか------」

 エリアンは最後の言葉にぴくっとしたが、クレキは誰を見ようともせず話を続けた。

「どのみち魔力のない状態なら、大したものでもないだろう------いずれ突き止めてみせるだけだ。それはそうと、てっきり潜伏してるかと思っていたが、肝心の二人------イルクナーと古代種とやらはどこだ?」

 冷静沈着なクレキに、サルミは顔面蒼白といった感じになっていた。戦うにしても、ヒラヌはまだしも、中級司祭のクレキ相手は厳しく、加えてカジールの力を与えられているファラナもいるとなると、よほどの策がなければ勝てる見込みなどない。

ましてや奇策など、考えている時間すらないのだ。

「奴らはどこかに隠れている? と、問うても、口を割るようには見えないな」

 クレキが思案深げにしていると、ファラナがエリアンたちを見ながら口を冷たく開く。

「口は堅そうですね。でもいいではありませんか。

ここは、彼らだけでも捕らえておけば、戦力を削げますし人質にも成りえますから有利ではありますよ」

 ファラナはエリアンたちを見ながら、クレキにそれとなく進言していた。一方のエリアンは、ファラナの声を聞くや、たちまちに前のめりになる。

「君の人質になるの、悪くないね! だけど、もっといいやり方がある」

 ファラナは、エリアンの積極性に少し引いてしまっている。だが、とうのエリアンはお構いなしだ。

「ヒーローにふさわしいものだよ。それは俺たちの力だけで、神の呪縛とやらを解いてみせる!」

 それならファラナも、危ない目に遭わないですむだろうとも言い加える。

「あなたで魔獣の呪縛を解決できるのなら、もうとっくに終わっています。だいたい------」

 そう言いかけているところに、クレキが手で制止させた。

「ならどうやって解く?」

「そ、それは今から考える」

 詰まらせながら答えるエリアンは、腕を組み、無理に強気な姿勢を見せた。対してクレキは、思慮深気にしている。

「勢いで言っただけか。でも、どうだろう、目的は同じだ。

 我々とは形が違うだけだろう。そこで提案だが、エリアンがわたしの提示する期日以内に呪縛をなんとかすればよし。もし駄目なら、我々に従ってもらうのは」

「望むところだ」

「な、ちょ、そんなの無理に決まってるでしょ!」

「いいや可能だ。想いがあれば、何でもできるんだよ」

 サルミは心の中で、人質決定と確信し、虚しさの余り頭をもたげていた。対照的にクレキは、ややしたり顔でいる。

 よほどのことがない限り、労せずに人質を取ったような事実に満足していたのだ。ただ、心のどこかでは、あまりにも簡単に行き過ぎたために、警戒も怠らない。

(前回のこともあるわけで、逃げられないようにしないとな。いや、まずはこちら側に取り込むにはか------)

 そう考えながら、期限を三日以内とエリアンに告げる。

 その間は、ある程度の要求を受け入れるともいった。

「なら、まずはミルナとニーサを解放してほしい」

「この一件が終わらないことには無理だな。あとカジール様に報告をする予定でいるから、お前たちも同行願おう。その後は好きにしていい」

 頷くエリアンは、やってやるぞといった気合を入れていた。ただ、気合だけで、これといった考えもなく城へと向かうのであった。

 数時間前――王都がカジール率いる魔獣に攻めてくるといった一報を、騎士団長シダが受けている頃、近衛兵長デジーレとドリザエムはある決断をしていた。

 王をいったんドリザエムが拠点を置く、ロンデガンに退避させるといったものだ。だが、王はこれを拒否。

 一国の王が、おめおめと逃げていては示しがつかないと頑なに拒んだのだ。だが、ドリザエムとデジーレの説得に折れることとなる。

「もし命の危険性が迫ったときには、わたしたちが命に代えて御守りいたします。その変わり王は、どうかロンデガンへとお逃げ下さい。

 決して恥とは思わないで頂きたい。王たる象徴がなければ、国は滅亡への道へ辿るだけですから」

 どうかご理解をとの言葉を、最後の落とし文句として使っていた。その合間にドリザエムは、ロンデガンに応援の使者を送っていた。

 破門のイルクナーに加え、討伐に出向いたニーサとミルナは捕縛されたとの情報が入っていたため、ミンス教会のドルイドは機能しないと判断したのだ。

 往復で二日ほど時間はかかるが、それまでならドリザエムだけで王を守れるとの公算もあった。ただ、魔獣が襲ってきたとき王国騎士団には内部分裂もあったために、王都を守るべく騎士団が早々に敗れ去ったのは計算外だったが。

「息巻いてたシダも、とんだ役立たずであったな。あんたはそうでないことを願うよ」

「わたしは王がお逃げするときに、しんがりを務めるだけさ。もっともそうならないよう、司教様がいらっしゃるのだろう?」

 嫌味が含まれたことに、ドリザエムは苦笑を浮かべる。と、奥の城内部に繋がる階段から、下ってく乾いた足音が聞こえてくる。

 こつこつと響く音は、徐々に大きくなっていった。二人は自然と身構える。

 目を皿のようにしていたが、相手は迫るペースは速く、すぐに正体を掴めた。

「長い散歩だったな、カジール」

 ドリザエムは目を怒らせながら、皮肉たっぷり効かせる。カジールは無視するように、自分の話を進める。

「ここには、少しばかり話し合いをしに来たのだよ。そう構えんで、矛を収めてはくれんか」

「矛を収めろだと? 随分と勝手な物言いだな」

 拳に力が入るとき、口元もぎりっとしていた。

「自分本位もここまでくるとあっぱれだ。ルーン文字で武具の強化をしたかと思えば、魔獣を引き連れて王都を占拠。

 今じゃこの有様だ。貴様、一体何をしたいのだ?」

「落ち着けドリザエムよ、まずはこちらの話からという前に、王もお呼びして頂けないだろうか」

 ドリザエムは指図は受けるわけがないと言おうとしたが、デジーレが手で押さえる。

 この場に、王を居合わせるべきと考えたのだ。王のいる前で、カジールはあくまで侵略者であると印象づければ、完全な裏切り者として討ち取れる。

 早期決着さえ見込めた。一方ドリザエムは、デジーレの考えはわからなかったものの、何かあるとして渋々といった感じで従う。

「いいだろう。だが、少しでもおかしな真似をしたら切りにかかる」

 ドリザエムはそう言い切るや、デジーレはさっと振り返って王を呼びにいく。数分も経たないうちに、王を連れてきた。

 王は今回の首謀者を、睥睨するように見ていた。カジールは予測の範囲とばかりの余裕を見せながら、恭しく頭を下げる。

「これは聡明なる王よ。こたびは不本意ながら、このような騒動を起こしてしまいお詫びの申しようもございません。

 いかなるとがめも受ける所存です。ですが、今に至ったわけを聞いて下さったら、思うところがあるはずです」

 厳かな顔つきをしている王は何も言わず、沈黙が続きを話せとのサインだった。デジーレは、恐縮ながらと言わんばかりに頭を伏せ気味にしながら話し出す。

 神が施した魔獣の呪い、そのための手段、そしてこれからのこと。

「我々には魔獣と人との合成した者が、魔獣を自在に操れますから、民草に危害が及ぶには至りません。

 心配は杞憂と化すでしょう。ですが、やはり気に入らない、もしくは魔獣との共生に慣れなず反旗をひるがえす人もおるでしょうな。

 現時点でそうかも知れません。ただ、それ以上に神は気に入らないと、わたしは読んでいるのです。{銀翼の水晶(ラグナロク)}が祭られてある王都に、魔獣がはびこるなど」

 カジールが言い終えると王は鼻で笑い、面倒くさそうに口を開く。

「わしが神の立場であったら、即座に鉄槌を下そうと考えるな。だが、結局はわしやお前の話だ。

 神がそうお考えになるとは誰もわからぬのではないか?」

「王のおっしゃる通りだ! もし神が降臨せずにいたらどうするつもりなのだ?」

 ドリザエムは、まだまだ言い足りぬ面持ちで、口角泡を飛ばす。

「だいたいタルミでの人害をどう説明する? 先ほど人に危害はないと言ったが、少なからず人命を失ったとの報告が上がっているぞ」

「ドルイドの騎士をおびき出すためではあったが、血が流れたことには猛省しとるよ。

 他に手はあったのではないかとな。だが、それがどうしたというのだ。

 これまで幾人の命が無くなったと思っておる? どっちにしても、もう無駄死にはなくなるのだがな」

「ぐっ貴様! 戯言をぬかしおって」

 憎き魔獣との共存など屈辱といってよかったが、確かに血が流れないで済むカジールの戦略に反論できず口元を歪ませていた。カジールは更に強い口調で、王に迫る。

「良薬口に苦しというではありませんか。あと、もう一つ飲んでもらいたい事項があります」

「なんだ?」

 まだ何かあるのかといわんばかりの王に、カジールは若干の笑みを浮かべながら答える。

「わたしを王国騎士団長に任命して頂きたい」

「また、良識を壊すような願いだな」

 王国騎士団を抹殺し、散々荒らしたお前がかと、呆れ返った顔つきで話す。カジールはそれでも、話せばわかるだろうとの思いから喰い付く。

「大それていても、そうせねばならぬ話があるのです」

 いうとカジールは、小さく嘆息をついた。

「実はこういう話です。我々が討った前騎士団長シダ殿は、癌そのもの。

内部からの反感は相当なものと受けています。こたびの王都占拠も内通者がいたお陰といっても過言ではなく、彼らとて騎士団の組織を変えたいとの思いで立ち上がったのです。

怪物のような指揮官を無くそうとです。それにより良い騎士団を設立するにあたり、まずはわたしが先頭に立ちたいとの考えに至りました」

「お主の考えは聞き及んだが、結論から申すと、却下だ。

 王都を混乱に貶め人命を軽く扱った貴公に、任せられんのは至極当然であり、即座に魔獣を撤退させよ。他に申し立てがあれば述べてみよ」

「恐れながら」

 カジールはきりっとした目つきに変わる。

「結論から申し上げます。我々はこのときをもって、国王陛下に変わり王都の主導権を握らせてもらいます」

「つまりは反逆罪に問われても、よいというのだな?」

「もとよりそのつもりでございますが、事の顛末を見て頂いてからだと考えが変わるかもしれませんぞ」

 したり顔のカジールに、ドリザエムはすかさず言い返す。

「上手くいったとして、罪は罪だ。いや、その前に数日以内で、ロンデガンからドルイドの騎士が来るだろうから、貴様は道半ばでついえるのだ」

「使者を送ったのだろうが、もっとも無事に辿り着けばの話だろうよ」

「な、なんだと!」

「魔獣の嗅覚は、驚異的といってもよかろう。ついでに話しておくが、その他のドルイドは手中にあるといっていい。

おそらく、ギルド司教の子らは捕まえただろうな。そこでドリザエム、お主はどうする?

懲りもせず罪だ罰だと言いくるめるか。そのような論戦を仕掛けるより、現実を何とかしようとする行動が正しいと思うがな」

ドリザエムは正論だと思う反面、歪んだ手段とも捉えていた。無論カジールは、ドリザエムの思いなど察してはいない。

「そこで王を守るがお主の役目かね。だが、気が変わったら、いつでも声を掛けてくれてよいぞ。

 司教のような力のある人なら大歓迎だからな。くれぐれも、わたしに屈したと考えぬことだよ」

 カジールはドリザエムが立場を変え、鞍がえするとは考えていなかった。それでもあえて誘ってみたのは、余裕があるところを見せておき、逆襲の戦略を立てにくくしておくためだった。

 優位性を匂わせ相手をいったん引かせ、しばらくは張り付けにしておいて、行方不明のギルト司教といい、落ち着いたら何らかの手を取ると決めていたのだ。その他に、王を守る前提の彼らが、そう易々と出てくるとはないだろうと考えていたが、一方のドリザエムは、眉に唾を塗る。

 カジールの態度に疑問を持っていた。もし王都を掌握したいのなら、王や自分も実力で倒してしまえばいい。そこで自身を屈服させ、仲間に引き入れるなり拘束すれば済む話なのに、わざわざ放置するような真似をするとなると、わざとしているのではと疑ってしまう。

 実は余裕などないとすら、見受けてしまうのだ。それはまた、デジーレも同じく感じていた。

 ここから逃げられはしないが、縛られることもなくしているのは、自主的にカジール側へと加わって欲しいのではとの推測すら立ててしまう。カジールが鷹揚に去っていく背中を見届けると、すぐに口を開く。

「まだカジールは、すべてが整っていないのかもしれないぞ。だが、慎重にいかなければいけない。

奇襲を掛けるには早い気がする。特にドルイドの最高峰に立つお前さんなら、体もうずくことだろうが、まずはわたしに探らせてくれ」

「構わんが、城内は魔獣と王国の騎士で見つかってしまうのではないか?」

「なめてもらっては困る」

 ふんと息をし、少しばかり肩を怒らせた。

「わたしとて近衛の長、一般の兵の目など容易く出し抜けるわ。------その前に」

 そっと口添えをしたあと、城の通路、盲点は脳にしっかりと入っているとも言い、出て行く間際には、半日以内で戻ってくると告げる。そのときのデジーレの足音はまったく聞こえず、気配すら感じさせないものだった------。

 王室の間に戻ってきたカジールは、これからの趨勢を占い考えていた。神は簡単には現れないとして、ドリザエム以外のドルイドと魔獣は手中にあることから、王都を手に入れるのは難しくないだろう。

近いうちに声明をするのも悪くないとも思考していた。問題は民衆にどう納得させるかと頭を悩ませているとき、扉の開く音が聞こえ、ふとそちらに目をやった。

 ギイッと重厚な音を響かせながら、厳かな表情をしたクレキたちが姿を見せた。

「まずは戻りが遅くなり申し訳ありません、カジール様」

「ふむ、して------」

 カジールは口を閉ざしつつ、連れてきた二人を見て首を傾げる。クレキはすぐに察し、これまでのいきさつを話した。

 イルクナーたちと戦い勝ったはしたが逃げられたこと、エリアンと偶然出会い、彼が神と対峙しどうにかする------できなかったときは我々の傘下に入ることだ。

「そうか------つつがなくとはいかなかったか------。もっとも、想定外があったからに止む得ないだろう------。

 逃げられたのは、夢想術でも読めぬというか限界はあるわけで責めれんな。-------ただ古代種がほんに出現したとなれば、もしや神の出現もあるやもしれん」

 このときカジールたちは、神が本当に現れた事実を知らない。だが、古代種の存在が明らかに知れると、神もまた近いうちに来るかも知れないと予感させた。

 同時に対抗策も講じねばと考える。ドルイドを早くに集めて仲間に率い、一枚岩にさせて迎え撃つ準備やら、魔獣や半妖を用い神との交渉材料にするといった策を浮かび上がらせる。交渉の後、魔獣の呪いを解かなかったら持てる力で強行にでる。

 神がごねて見捨てた場合、その事実を公にして、魔獣らと共存する組織を作る計画まで立てていた。神が魔獣を放置するとなれば、カジールらが魔獣を管理し、民の命を保証するもので、民も受け入れざる終えないと。

 いびつな形だが、自ら再建に関わる王国の騎士団も一先ず安泰だろうとも思っていた。と、ふと近くに寄ったクレキが、カジールに耳打ちをする。

「更に申し上げますと、彼らドルイドの見習いが、この数日で解決する見通しはありません。そこで彼らを使い、イルクナーと古代種ごと引き入れたら、磐石の態勢になります」

「なるほどの」

 カジールは納得するような感じで呟くと、エリアンの方を向いた。

「はて、エリアン------これからどうするか決まっておるのか?」

「------そうっすね------まずはミンス教会に行って{銀翼の水晶(ラグナロク)}でも見に行こうかと。何かが起こるような気がして」

 エリアンの目は希望で輝いていた。一方隣で聞いていたサルミは、手で顔を覆う。

 無計画と浅はかすぎる考えに、もう言葉を失っていた。

「こういうときこそスターである僕が、成し遂げて見せます!」

 気色ばむエリアンは、見せ付けるように胸を張る。絶望しかないサルミは、せめてイルクナーと鉢合わせにならないようにと祈っていた。

 ついてくるであろうクレキたちに見つかってしまって、また捕まってしまうようなことだけは避けたかったく、思わず天を仰いでいた。その様子を壁の向こう側、わずかな隙から覗き見している人がいる。

 忍びのように動いていたデジーレだ。

華麗な身のこなしにより、王国の騎士たちを見事に欺いたほか、特殊な香水により魔獣の嗅覚すら嗅知されずに、ここまで辿り着いていたのだ。

「どうやら、カジールに流れがいきそうな雰囲気はあるな」

 自身の予測とはやや異なったために、つい厳しい顔つきになる。ただ、無理な特攻を掛けずに済んだのは僥倖だったのではと思っていた。

「最悪ドルイドの騎士がカジールに下らぬようせねば------。そういえばエリアンとかいう少年の隣にいた娘、なにか焦っていたように見えたな。

 隠し事をしている反応に近い------。ミンス教会にイルクナーでもいるのか------?

 ありえない話ではない。------ここは先回りして先手を打つべきだな」

 そう呟いたデジーレであったが、回れ右して城の回廊付近に出向き、外には出ようとしなかった。

(先手を打つ前に、一仕事しておくか。我々の側についてもらうためにも)

 そう心で思いながら、気配を殺しつつ、誰の目にもつかないままに先へと消えていった。

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