神々の破滅(ラグナロク)が異世界を救う!? 4/11

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 魔獣を駆逐し、一日経ったタルミの空は一日中雲で白く覆われていた。

雲間から突き出る陽の斜もごく小さく数える程度でしかない。

その光の落ちる先に、一人の可憐な少女を照らし出していた。

墓に刻まれた父の名を見つめるその姿は、舞台の一場面のようにも見えた。

哀愁が立ち込めているがために、一層そのように見えてくるのだ。

一陣の風が吹き、草花や少女の黒髪が優しく揺れていた。そんな折である。

鉱石を削りきったような顔をした初老が、青年の背後に近づいていた。王都の紋章をつけたローブを纏っている。

「君は確か、イリーナだったかな。お、これはいけない、わたしの名も名乗らずこれは失礼」

 デジーレと名乗ると、軽快に話しかけてきた。

「それにしても見違えるくらい綺麗になったもんだ。いや、ついつい感慨深くなってしまっていかんな。

------わたしは君の父親とは古い友人で、君が小さい頃に会ったが覚えていないかね? そう、あれは」

 そう言いかけると、墓標に刻まれた父の名と共にある母の名に目をやった。

 イリーナの母親の葬儀に会ったことがあると言いかけたがやめた。

 不幸な日を思い出せさせるようで憚れたのだ。ただイリーナは、デジーレが言わんとしていることを察している。

 どことなく気まずそうにしているデジーレを見れば、そう言っているに等しかった。だが、声のない問いに答えようとはしなかった。

 かつての記憶を辿れば幼少の頃とはいえ思い出せるかもしれなかったが、父親の友人だったとしても所詮垢の他人。

肉親を亡くし、空白を埋める術を知らない今では、どうでもよかった。それを悟られまいと、本能からか体現はしていた。

 無造作に振り向いたイリーナは、何の感情もないといった顔つきでデジーレを迎え、無言で応じる。

「まだ小さかったし無理もないな。それはそうと------許して欲しい。

まだ親を亡くしたばかりなのに、配慮に欠けていたようだ。ただ、君を何となく放っておけなくてね」

矍鑠(かくしゃく)としているデジーレは、肩を軽くすくみ上げる。

「なに、ただのおせっかいじじいよ」

安心してくれと言わんばかりだった。その様子に嘘や虚勢は感じられなかったが、イリーナは知らぬ人間に対する特有の、警戒の瞳を解くことはできなかった。

「今は誰とも話す気になりません」

 部外者を丁寧に追い返すような話しぶりをした。一方のデジーレは、口を開いてくれたことに満足していた。

 気持ちは陽気になり、表情は神妙な面持ちになり話し出す。

「それはそうだし、無理に話さなくていい。それでも、わたしの話は頭の片隅でもいいから入れてくれまいか?」

 イリーナは反応を示さなかったが、意に返さず続ける。

「こたびのことは本当に残念に思う。しかしながら、ずっと憂いてはいられないのも事実であろう。

 それでは前に進めんからな。して時に質問なのだが、憎むべき魔獣はともかく教会をどう思うか?」

 沈黙を貫くイリーナは、途中より墓石に向いたままだった。

「やはり無能な者として、恨んでいるかね?」

「わたしは別に------。ただ少し残念なだけ」

 渋々といった様子で答えるイリーネは、胸の内で魔法に対する期待が消えていた。

 守ってくれるはずの人たちに、幻滅したといっても良かった。ただ、言葉には出さなかった。

答えるのも面倒だと思い、またそこまで丁寧に答える義務も義理もないと、判断していたのだ。

デジーレもまたそれ以上を引き出そうとしてはおらず、淡白なまでに話を進めてきた。

「そうかね。だが、このままの死者を偲んで生きていくわけにはいかんだろう。

 そのようなこと、イリーナが良くわかっているとは思うがね。して、おせっかいとわかっているが、何か行動を取るべきではないか?」

 紋章を一瞥するイリーナは、遠まわしに騎士団に勧誘されているのではと推察していた。

「そうね」

 冷ややかに、そして突き放すように言った。

 王都の人間がいいとも思えなかったのだ。

特に騎士団は教会との不公平感を主張するが、どうしてもいきすぎているように見えて好きになれなかった。魔法という努力もなしに手に入れた力をずるいと言い張る騎士団は、そうやって草莽を扇動しているように思える。

あわよくば教会の権力を奪うとしているようにも見えた。思考を先に進めると、尚イリーナの心を疑心暗鬼とさせる。

利用されるとの疑念が持ち上がったのだ。

教会の落ち度によって父親を失った騎士団の者として喧伝され、翕然として同情がイリーナに集めさせれば、それだけで効果はある。

また魔獣討伐も捏造され、英雄譚まで持ち上げられる可能性も否定できない。

悲劇の英雄現るとして、民衆に絶大な人気を得られるが、イリーネは見世物になるのが我慢ならない。

騎士団の人形などまっぴらだと言ってやりたかった。その様子を察したのか、デジーレはにやりとする。

「私の勘違いならば恥ずかしい限りと前置きさせてもらうよ」

 露骨なまでにうやうやしい。

「王都の者として、騎士団関係の勧誘をしにきたと思っているのではないか? もしそうならば、とんだ誤解だ。

 わたしの言い方が悪かったかも知れぬ。ただし、だ」

 一拍置いた後、語尾を強める。

「君自身が騎士団を熱望しているともなれば話は別だがね。しかしながら、そうではないだろう。

 あのような場所に君が入ってくるなど、わたしの方でひっくり返る」

 鷹揚な話しぶりをしながらも、イリーナの反応を良く見ている。

「もっとも選定で落とされると思うがね。さて、冗談はこれくらいにしておいて------」

 そう言うなり、紋章のバッヂに目をやる。

「こうすれば話し合いも、つつがなくいくだろう」

 手を王都の紋章にやった。と、ぶちという鈍い音を鳴らしながらバッヂを剥がし、投げ捨てる。

「幾分マシというやつだ。それでどうだろう。

 君さえよければ、現在の王都を見てみてはどうか?」

 イリーナは警戒心を解くことはなく、返事はしなかった。

 紋章を捨てたところで、信用できるわけないとして聞く耳すら持っていなかった。そのような折、デジーレは急に仰々しくする。

「申し遅れたが、私は王宮の近衛の長を勤めておるため、案内役ができるがどうかね?勿論、行くか行かないかは、イリーナが決めてくれたらいい。

 君の自由だ。私はただ、おせっかいをしたいだけだからな」

「そもそも父の友人だからって、そこまでするかしら」

「普通の友達関係ならばしないだろうな」

 デジーレは目を瞑り、ふと空を仰ぎ見た。

 昔のことを思い出していたのだ。イリーネの父親とデジーレは若かりし頃、近衛兵の新兵として勤め、同僚として段々に友人の関係に至った。とある日、王の暗殺情報が入り、未然に暗殺者の行動を読、待ち構えていたことがあった。

武功を上げたいデジーレは一人先走り、暗殺者に向かっていくのだが、暗殺者の思わぬ反撃にあやうく致命傷を負うかのときだった。

危険を察知していたイリーナの父が、身を投げ出し防いでくれたのである。だが、そのとき腕の筋を切ってしまい、腕の筋力を失ってしまったがために近衛兵を諦めざる終えなくなる。

(あいつは何も言わずに去っていくとき、私は何もいえなかった。罪滅ぼしをしようだなんて思わないが------)

 イリーネが訝しげにデジーレを見ているので、デジーレははっとなりながら言葉を繋ぐ。

「私は君のお父さんに貸しがある」

「あ、そう。でもわたしには関係ないことよね? 貸しとか言われてもよくわかんないし」

「そうだな------。だけどここまで足を伸ばした」

「だから、そんな話されても------」

 と、言いかけているところを、デジーレは無理に止めた。

「イリーナがジュプラム国を知るべきだと思ったのだよ。それが父親が殺されたこととどう関係していくのかまではわからんが、すべてを知った上で黙祷を捧げるべきだとね。

私が教えるのもいいが、自分の目で見てみるのがいい」

 デジーレはイリーネの返答を待たずに進める。

「王都にいって気に入らなかったら、すぐに帰ってきてもいい。まずは比べるところからはじめるべきだろう」

 イリーナは考え深げにした後、眉につばを塗り、デジーレを見る。

「そこまでいうなら行ってあげてもいいわ。だけど勘違いしないでよ。

 判断するのはこれからだから」

 首を縦に振ったのは、デジーレを信じてるわけでもなく、口説き文句に落とされたわけでもなかった。

 いいようには欺かれない自信があったのだ。母親を早くに亡くしているイリーネは、父親はいたものの、しっかりしなきゃとの想いから一際自立心が強くなり、そうしてきた。

そのため、そういった類に引っ掛かることなく今日まで過ごせてきたという自負があるのだ。勿論、ついていくに当たっては魅力という理由もある。

見聞でしか知らない騎士団や王宮、教会の掩蔽されていた秘匿を知れると考えただけで、背中がぞくぞくしていた。騎士団の内部や、神のように崇める人も少なくないドルイド司祭を、魔法が絶対ではないとわかった今では余計に興味が湧く。

もしかしたら父の死も防げたのではと、不確かな推測まで浮かんできていた。

「ここから王都は長いの?」

 そう言いつつ、懐に忍ばせてある護身用のナイフにそっと触れた。

ついて行くにあたり、必ずデジーレの後ろを歩くようにと決めていたのだ。とうのデジーレは警戒されていると察して、わざと距離感を置いて、少しでも安心させようとしている。

イリーナを一瞥すると、くすぐったそうな微笑さえ見せた。

「短くはないな」

 愛想よくしながら応える。

受け流しているようにも取れた。

そうしている二人の耳には、夕刻を示す鐘楼の鐘が溢れるばかりに届いていた。

茜日が差し、二つの影を墨のように濃く落としていく------。

砂糖細工のような建物群を縫いつけた聖都カナイは、穏やかな残照により、燦燦とした煌きを放っていた。

かつて流行した風景絵画の輝きにも似ていた。その中央に腰を構える王宮の城は、殊更に目立つ光りを要している。

雪花石工のように美しい白一色の城は、真珠のように輝いていたからだ。

まるで聖像めいた彫刻のようにもみえる。一方王宮内は、外観とはがらりと異なる。

黒く光る甲冑と先が棘のように鋭い槍が回廊の脇に並べられ、下には血より鮮やかな赤の敷物。

壁には、金の糸で刺繍された鷲紋章つきのドレープまで飾られている。

王の間ではそれらを超える、最上の装飾が施されていた。壁際には金色の鳥と銀の狼に太陽が刺繍されたタペストリーが掛けられている。

支柱に彫られた猛禽類は、狂おしげなまま固まっているように見えるくらい精巧な出来栄えであった。

王は今まさにそこにいた。

蔦やつるを象(かたど)った椅子にどっしりと腰を据える王は、高齢の老人であった。しかしながら、虫食い狼さながら危険なことに変わりはない双眸をしている。

喉元まできている真っ白な髭をさすりながら、おもむろに口を開いた。

「諸侯、並びにドルイド司教のドリザエムに集まってもらったは他でもない、騎士団と教会との指針についてだ」

 そう、これから騎士団長シダの発案により王国会議が開かれようとしていた。

 ドリザエムとカジールがイルクナーの審議を開いた直後のことでもある。

「議長は王であるわしが務める。だが全権は、発起人であるシダ王国騎士団長に任せるつもりである」

 王は声高に宣言すると、王国騎士団長であるシダが、王の言葉を機嫌よく受け取っていく。

「無理いった願いを受け入れたことに感謝の言葉もございません、聡明なる王よ」

 恭しく語る騎士団長シダは、髭面で歳も中年に行きかけてるといった感じだ。

「加えて寛大なる王の前にて忠実であることを誓います。それに乗じるわけではありませんが、どうかお集まりの皆様もご承諾下さい」

 普段はデリカシーに欠けると評判のシダであったが、滅多に見せない切り口上の語りで応じていた。それもそのはずである。

 回りの面々は王宮の重鎮ばかりであったからだ。王や司教を始め、王の第一補佐の宮長、ジュプラム国の政を司る政務官、更には王を守備する近衛長やカナイ聖都の首長までも顔をそろえていた。

 まさに国を代表する人であり、それだけ重要な会談だと示している。

「早速ですが、件のタルミッタでの出来事を述べ、議題にさせていただきます。情報通の皆さんの事です、もしや知っておられますか?」

 もし、知らない方は挙手をといった。が、手は誰も上げなかった。

 むしろとっくに知っていると言わんばかりに、肩を小さく窄める者までいた。シダは特に驚く様子はなく、やや笑みすら浮かべている。

各散らばっている斥候が上手く喧伝したせいもあり、大事のように取り扱われ、知らぬものの方が珍しいくらいになっていたのだ。

「それでは議題を申し上げます」

 纏っている服の首元に手をやりながら、嫌味たらしく襟を正す。

「議題に持ち上げることを述べます。教会からの特権の一部譲渡を含む、騎士団への魔獣討伐の委任の要求です。

教会の現体制には限界があると露呈したわけでありますから、当然とは思いますが」

 近衛長デジーレは沈黙を守りながら、回りを注視していた。一方、政務官はここぞとばかりに発言する。

「治安強化のためなら、騎士団長殿の意見もやむなしだな。にしてもドルイド教会ともあろう人が、まさかの失態。

 何かあったのですか? ドリザエム司教」

 薄笑いを交える政務官は、嫌味をこめて言った。ドリザエムは意に介さず応える。

「何もない、全ては教会の責任だ」

 にべもなく済ませた。その刹那、シダはかぶせるように言ってくる。

「ならば話が早い、我ら騎士団に権限をお譲り願おうではないか」

「それも悪くない。だがこちらとしても、責任は取ったのだよ騎士団長。

 聞きたまえ。件の司祭は、教会追放処分を行った。この処置により、一応の不安材料はなくなったのだよ」

「当たり前のことだ、誇らしく言われても困る!」

 一拍置いた後、シダは射竦めながらいった。

「いいか、良く聞け。結果人が死んだんだ、これ以上犠牲者を出さないようにするための勘案で、教会に任せて置けないって話なのだ、わかるか?」

「ならば騎士団に任せれば、至極安全になると?」

「質問を質問で返すんじゃねえ!」

 感情的になったシダは、思わず声を荒げ素面が出てしまった。そこにすかさず王が、まあまあといった感じで割って入る。

「よいではないかシダ騎士団長。しかしだねドリザエム司教、教会ももうちょっと頑張らないと」

 王としては、死人が出た責任を見過ごすわけにはいかないために、やんわりとだがチクリと刺した。

 首長も乗じて、前のめりになって口を開く。

「確かに王のおっしゃることはごもっともですな。だだですね、相手は魔獣ともなれば、いくら騎士団とはいえ無傷では済まない事態も起こりえるのでは?

 生身の人間ですから。その点、ドルイドの人間なら------いや、だからこそ魔法とやらで駆逐するも容易いと思えるのですがね」

「騎士団長のわたしも同じ考えだ。だが、うちの精鋭を見てもらえれば、剣が魔法に違わぬと理解してもらえる。

 日頃の鍛錬は相当なものだからな。それにうちは人材が豊富だ。

 各地に満足のいく人数を派兵できるのだよ。まさに虫の一匹見逃しはしないはずだ」

「ふむ、頼もしい。そうなると、騎士団の方々に委ねてもと思うが、先ほどから黙しているお二方のご意見を聞いておきたい」

 そういって首長は、近衛長デジーレと宮長に視線をやった。急に振られた宮長は、しどろもどろしている。

「わ、わたしは王の安全が守られればなんでも良い。

 せ、専門家であるあなた方に任せますから」

 最後は無理にまとめ投げた。一方デジーレは、しばらくしてから双眸を皆の目線にゆっくり合わせる。

「戦いの手練である騎士団に任せるは、吉であろう。だが、しばし考えて見てはどうか。

 ドルイド教会を見定めるには、ちと性急ではないか?」

 シダが睨むような一瞥を向けてきた。それでもデジーレは、意に介さない。

「彼らとて術が使える前に生身の人言、完璧ではないのは一緒だ。だがドルイドの術者として、他の者より責任が圧し掛かってくるのも必然。

 そうでしょう? ならば次はないと約定していただくとのことでよろしいのではないか?」

デジーレはそっと手を目の前で組んだ。首長は、その様子に深い意味はないだろうと見なす。

「うむ、それならばドリザエム司教も納得ではないか?」

「納得どころか、寛大な心遣いに感謝せねばなりませんな」

 思わぬ助け舟に預かり、空気をそれとなく放免へと持っていく。

面白くないシダは、論破しようと必死に思考を巡らせていた。ただ、シダが何か言う前にデジーレがおもむろに口を開いた。

「滅相もない。ああ、それといい忘れていましたが、今後教会への干渉もあり得るとご理解して頂きたい。

 我々には魔法というものに疎くて、報告を受けてもぴんとこないこともある。タルミの件もそうだが、ドルイドについて我々も知っておきたいのです」

 組んでいた両手から、親指をすっと自分の顎元においた。ドリザエムはデジーレの仕草を、思わず凝視してしまう。

 言い放たれた言葉の含蓄に戦慄を覚えていたからだ。これからは、彼らの傘下に入る可能性さえあり、少なくとも不利な立場に追い込まれているのは確かだった。

 一筋縄ではいかないと思っていたが、こういった形でえぐられてくるとは予想していなかった。

「無論、ドルイド教会は言い訳などしない。だからこそ究明は、講じるつもりではいるがね」

 ドリザエムはにやりとした顔つきを見せ付けた。しかし、相手の出方をうかがう意味を込めた話で、本当に何かを講じているわけではない。

いずれは乗り出す予定の、いわば願望にも等しかった。

 相手の攻勢を一時でも止め、時間稼ぎをしようとする牛歩戦術といえば正しいだろう。しかしながら、それを両断するかのようにシダが声を放つ。

「調子に乗るんじゃねえよ!」

 シダはドリザエムに挑発されたと見なし、大声を撒き散らす。

「悪いのは教会で、俺たちは譲歩してやってるんだからな!」

 感情的になっているシダは、もう止まらなくなっている。

「すみませんとか言わないのかよ? 別に言わなくてもいいけど」

 明らかにイライラしている様子が見て取れると、ドリザエムも無駄に腹が立った。

 結局、謝らなくていいのであれば、いちいち言わなくてもいいだろうと思ったからだ。ただ感情的になっては得策ではないとし、済ました顔を取り繕う。

「非礼があったならば許して欲しい。しかしながら今後は、落ち度のないよう努めていく次第です」

「頼むぞドルイドの者たちよ」

 王は落としどころを見つけ、肩を撫で下ろしながら話していた。それからややあって、回りに目配せする。

 これにて閉会してもよいなという暗黙の合図を示していた。不満顔のシダは渋々といった感じで席を立つが、それでけでは終わらない。

 手にしていたコップを強くテーブルに叩きつけていた。ドリザエムは嫌でもシダの態度が目に入る。

(あれはまずいな------何をしてくるか------。できれば、イルクナーがあっちの件をすんなり解決してくれればまだ楽になれるのだが------)

 ドリザエムは皆が出払った室内で考え込みながら、ふと外に生えてあるガーベラの花を眺めていた。

わずかに揺れる黄色い花びらが、笑っているように見える。でもそれが何故だかわからないでいた。

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